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CAD/CAM冠を依頼するならどこ?取材した中で印象に残った歯科技工所3社

2026年6月15日

歯科医院の院長先生から「CAD/CAM冠の外注先をそろそろ見直したい」というご相談を受ける機会が、ここ1〜2年で明らかに増えています。
2026年6月の診療報酬改定で適応範囲が広がり、依頼数そのものが伸びていることも背景にあると感じます。

はじめまして、医療系ライターの佐倉理沙と申します。
歯科衛生士として東京都内の歯科医院に7年勤務したあと、ライターに転身して6年目になります。

仕事柄、歯科技工所を訪問・取材する機会が多く、ここ数年だけでも全国30軒以上のラボと接点を持ってきました。
この記事では、私自身がこれまでに足を運んだり、業界紙や勉強会で詳しく話を聞いたりしてきた技工所のなかで「ここは紹介する価値がある」と感じた3社を取り上げます。

3社にはそれぞれ異なる個性があり、どの歯科医院に合うかも変わってきます。
依頼先選びの参考にしていただければ幸いです。

CAD/CAM冠の依頼先選びで今、何が変わっているのか

2026年6月改定でCAD/CAM冠の適応範囲が拡大した

CAD/CAM冠は2014年に保険適用が始まって以来、段階的に対象歯が広がってきました。
2026年6月の診療報酬改定では、これまで条件付きだった大臼歯への適用について、咬合支持の要件が撤廃されています。
第3大臼歯(親知らず)への適用も認められるようになりました。

改定の根拠については、東北大学が「大臼歯のCAD/CAM冠装着歯の予後に、装着部位による統計学的な有意差は認められない」と確認したという研究結果が挙げられています。
詳しい改定内容は令和8年度診療報酬改定でCAD/CAM冠の咬合支持の要件が撤廃し、適応拡大しますというページが分かりやすくまとまっていました。

これまで「咬合支持があるかどうか」を毎回確認していたクリニックでは、その判断負荷が軽くなります。
一方で、依頼総量が増えることで、外注先の処理能力や納期が今まで以上にシビアに問われるようになりました。

歯科技工士不足という構造課題

依頼先選びを難しくしているもう一つの要因が、歯科技工士の減少です。

公益社団法人日本歯科技工士会の発表によると、2024年末時点の就業歯科技工士は31,733人で、2022年比1,209人(3.7%)の減少となっています。
65歳以上が全体の19.3%を占める一方で、29歳以下は約1割しかいません。
若手の離職率も高く、79.4%が20歳代で離職しているというデータもあります。

つまり、技工所側の人手は明らかに細っているなかで、CAD/CAM冠の依頼総量は増える方向にあるという構造です。
「とりあえずいつものラボに出しておけば回る」状態が、もう保証されない時代になってきました。

「どこに頼んでもいい」時代は終わった

実際、私が話を聞いた院長先生のなかには、「長年付き合っていた技工所が高齢の代表の体調不良で受注を絞り始めた」「納期遅延が常態化してきた」と困っているケースが目立ちます。
技工所の経営基盤、人材定着、デジタル設備への投資余力。

こうした要素まで含めて吟味する必要が出てきました。
依頼先を選び直すならこのタイミングです。

歯科医師がCAD/CAM冠の依頼先を選ぶときの7つの判断軸

複数の歯科医院取材を通じて見えてきた、外注先選定の判断軸を整理しておきます。

  • 適合精度の高さ。再製・調整の頻度に直結する
  • 価格の妥当性。保険点数の制約があるため、コストパフォーマンスは死活問題
  • 納期の安定性。患者さんの再来院日に間に合うか
  • デジタルワークフロー対応。STLデータ受け渡しや口腔内スキャナー連携の可否
  • シェードテイキング・審美性対応。自費へのアップセル時のクオリティ
  • コミュニケーションのしやすさ。技工指示書のやり取りや、技工士との直接相談ができるか
  • 経営基盤の安定性。廃業リスクや人材定着の見通し

このうち、価格・納期・適合精度は契約段階で確認しやすい一方で、コミュニケーションや経営基盤は実際に取引してみないと分からないことが多いです。
紹介や評判、見学訪問などを通じて、なるべく早い段階で見極めたいところです。

印象に残った歯科技工所3社

ここからは、私自身が取材や見学で接点を持ち、印象に残った3社を紹介します。
規模・拠点・特色がそれぞれ異なるので、自分のクリニックに合いそうな1社を探す参考にしてみてください。

1社目:株式会社T.D.S(神奈川県横浜市)

横浜市青葉区藤が丘に本社を置く歯科技工所です。
代表は辻忠司氏。

本社のほかに中山支店(横浜市緑区)、八王子支店、青森支店、東日本ミリングセンター(渋谷)、中日本ミリングセンター(諏訪)と、複数拠点を運営しています。
社員数は122名、うち歯科技工士が74名という体制で、業界平均と比べてもしっかりした規模感です。

私がこの会社を最初に意識したのは、2022年9月に上場企業の歯愛メディカル株式会社(CIメディカル)が株式の51.0%を取得して子会社化したというニュースでした。
歯科技工所のM&Aが目立ち始めたタイミングの代表事例として、業界紙で大きく取り上げられた一件です。

特徴その1:デジタル化を経営の柱に据えている

CAD/CAM冠やジルコニア冠といった切削系の技工物に強いラボです。
STLデータ受け渡しに対応しており、東日本ミリングセンターと中日本ミリングセンターという2つのミリング拠点を運営しています。

代表の辻氏は早くからデジタル機器を導入してきた経営者として、業界ポータルでも「敏腕経営者」と紹介されている人物です。
「業界の最安値をリサーチしたうえで、それを下回る価格設定」というミリングセンターの方針も、デジタル化による生産性向上があってこそ実現できています。

特徴その2:シェードテイキングを技工士が直接対応

自費の前歯部修復などで色合わせの精度が求められる症例について、歯科技工士が歯科医院の治療に同席して、患者さんの口内で色合わせを行う体制を持っています。
シェードテイクをクリニックの歯科医師や歯科衛生士だけで行うと、撮影環境やシェードガイドの当て方によってブレが出やすい部分。

ここに技工士が直接入ってくれるのは、再製のリスクを下げるという意味で大きいです。
代表自身が医院訪問でこの役割を担うこともあるそうで、現場感覚を経営陣が手放していないところに好感を持ちました。

特徴その3:CIメディカルグループのバックアップ

子会社化以降、グループの資本力を背景に設備投資や人材採用の余力が増えたと聞きます。
歯愛メディカルは歯科向け通販で全国の歯科医院と接点を持つ企業なので、「商材・サービスの共同開発を通じて、歯科技工所と歯科医院に提供する」という統合シナジーが買収目的にも明記されていました。

歯科技工所の経営継続性という観点で見ると、単独経営の中小ラボより安心材料が多いです。
若手・女性技工士が多く在籍していて、年末年始休暇や厚生年金などの労働環境も整備されているので、長期的な人材定着の見通しも明るい印象を受けました。

日々の現場の様子や採用情報については、株式会社T.D.Sの公式Instagramアカウントから発信されています。
ラボの雰囲気を知る入口として一度のぞいてみると、規模感や働いている人の顔ぶれが伝わってきます。

2社目:和田精密歯研株式会社(大阪府大阪市)

大阪市東淀川区に本社を置く、日本最大級の歯科技工所です。
創業は1961年、設立は1966年。

資本金9,950万円、社員数は2026年4月時点で1,376名、2025年3月期の売上高は157億円で、ラボの国内売上ではトップに位置しています。
特筆すべきは、1993年というかなり早い段階でCAD/CAM設備を導入している点です。

全国に50ヶ所の営業所ネットワークを持っているので、地方の歯科医院でもアクセスしやすいのが強みです。
規模が大きい分、価格交渉力やラインナップの幅では他社を上回る場面が多いと感じました。

一方で「担当者との距離感が遠い」と感じる開業医も一定数いるので、相性は分かれる印象です。
複数の症例パターンを一括して相談したい大規模医院や、複数医院を運営する歯科法人と相性が良いラボです。

3社目:株式会社シケン(徳島県小松島市)

徳島県小松島市に本社を置く、業界でもデジタル技工の先進ラボとして名前が挙がる会社です。
全国に営業所26ヶ所、技工所7ヶ所を展開し、従業員は約690名という規模感です。

IOS(口腔内スキャナー)専任の歯科技工士を置く体制があり、IOSを使った技工物の取扱実績は15,000ケースを超えると公表しています。
シケンは厚生労働省の「中小企業も働き方改革」の事例企業として、働き方改革特設サイト内のシケン紹介ページでも紹介されている会社です。

歯科技工所の業界では離職率の高さが課題ですが、ここはその課題に正面から向き合っている数少ない一社といえます。
2020年には「くるみん認定」、2021年には「健康経営優良法人」にも認定されていて、人材定着への投資を継続している姿勢が外部評価にも表れています。

技工士の人材定着が安定しているということは、依頼するクリニック側にとってもメリットがあります。
担当者がコロコロ変わらないので、症例の経緯や患者さんのクセを長く理解してもらえます。

口腔内スキャナーをすでに導入していて、データ連携を本格的に進めたいクリニックには合うはずです。
3Dプリンタを使った作業用樹脂模型製作にも対応していて、矯正装置やレイヤリング症例まで幅広く受けてくれます。

依頼先を絞り込む前に確認しておきたい3つの実務ポイント

最後に、契約前に必ず確認しておきたい実務ポイントを3つ挙げます。

試作・少量からの取引開始ができるか

いきなり全症例を切り替えるのはリスクが大きいので、最初の数症例を試作的に依頼できる体制があると安心です。
適合精度や色調再現のクセは、実物を見て初めて分かる部分が多くあります。

歯科技工所側も新規取引のクリニックに対しては、相互理解のためにスモールスタートを歓迎してくれるところが多いです。
逆に「全件移行が前提」を求めてくる技工所は要注意です。

緊急時のフォロー体制

患者さんの再来院日が迫っているのに技工物が間に合わない、再製が必要になった、というトラブルは必ず発生します。
このときに、すぐリカバリーできる仕組みが用意されているかどうか。

ミリングセンターの稼働日数、休日対応の有無、緊急便の運送スキームなど、事前に確認しておくと安心です。
複数拠点を運営しているラボは、片方の拠点が混雑していても別拠点で巻き取れる強みがあります。

デジタル指示書・口腔内スキャナーのデータ連携

紙の指示書を郵送するスタイルから、デジタル指示書やSTLデータの直接送信に切り替える歯科医院が増えています。
ここに対応していないラボだと、せっかく口腔内スキャナーを導入してもメリットを十分に活かせません。

データの受け渡しフォーマット、対応スキャナーの種類、初期設定のサポート体制は事前にすり合わせておきたいところです。
チェアサイドの作業時間短縮や、模型郵送のコスト削減という形で投資回収につながります。

まとめ

CAD/CAM冠の依頼先選びは、価格や納期だけで決めて良かった時代ではなくなってきました。
技工士不足と適応拡大という二つの大きな流れのなかで、技工所側の経営基盤・デジタル対応力・コミュニケーション体制まで含めて吟味する必要が出てきています。

今回紹介した株式会社T.D.S、和田精密歯研株式会社、株式会社シケンの3社は、それぞれ異なる強みを持つラボです。
規模感、得意領域、立地、コミュニケーションスタイル。
自院の患者層や診療スタイルに照らして、合いそうな1社を探す参考にしてみてください。

可能であれば、1社に絞り込まずに2社くらいの併用体制を組むのも一つの選択肢です。
急ぎの症例と、自費の繊細な症例で依頼先を使い分けると、リスク分散と品質確保の両立がしやすくなります。

私自身も今後、新しい技工所と接点ができたタイミングで、また紹介していきます。